歩き出す


日本にいろいろなものをほっぽって外に出てみた。

僕が旅に出る理由はだいたい100個ぐらいあるのだが
出てしまうとあっという間に旅は日常になってしまう。
冷たい、よくて生温いシャワーを浴び、歯をみがき、洗濯をする。
なじみになったチャイ屋へ行き、野良犬に吠えられる。
日がな一日ぼんやりと通りを眺め、通りすがりの人たちと冗談を言いあう。
それに飽きたらただただ歩き回る。疲れてもまだ歩く。
ごくごくありふれた旅の日常。

でもやっぱり出なきゃいけないときっていうのはあるんだなと思う。
そんな生温い時間を体が求めてしまうのだ。

たぶん二十歳のときのようなエキサイティングな気持ちで旅をすることはできないだろう。
あの頃は本当に恥ずかしいほどなんにも知らなくて
何を見ても、誰と話しても、驚くほど自分の中に染み込んでいった。
自分が何者でもないことが心の底からいい気分だった。
むやみに大きな声をあげたかった。

そして今三十七歳。
僕がこの旅で何を感じるのか。はっきりいって想像できない。

でも、やっぱり世界は自分なんかが考えるよりとてつもなく広くて、とてつもなく知らないことだらけで、どんなにインターネットが張り巡らされていたとしても、やっぱりその場に体を投げ出してみないとわからないことだらけだろう。
そんな世界を見たくて、日本を出てきた。
やっぱりエキサイティングな旅がしたい。
横っ面をひっぱたかれたいし、氷水を頭の先からぶっかけられたい。

三十七歳五里霧中。
先のことなんかわからないけど
とりあえずインド、ダラムサラという街にいる。